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執筆者の写真濵村裕之

「豪州ラグビー、この10年の迷走」

更新日:2024年1月19日

#3 ラグビーワールドカップフランス大会


23年フランス大会の中で、オーストラリア代表の低迷は大きなニュースになりました。大会前に監督が変わるなど何かと話題になりましたが、では監督が変われば全てが良くなるのでしょうか?どんな監督が来ても常にいい選手をセレクトできるような環境があること、そのためのシステムが確立されていることが一番大切なように思います。

その視点から見た時に、豪州ラグビーにどのような構造的な問題があったのかを検証しながら、新しい監督を迎える日本ラグビーの構造についても考察していきたいと思います。


今回のブログでは、豪州ラグビーの迷走を「超我流」の自由視点でみなさんにお届けできればと思っています。


私自身が、10年前の2012年からオーストラリア協会と契約し、ハイパフォーマンスユニットのアナリストとして働いた経験をもとに、この10年間の迷走を検証していきたいと思います。当時の役割は、ユース代表チーム(U20や高校代表)、セブンス代表、ナショナルアカデミー、シドニーとブリスベンのクラブラグビーなどの支援をすることでした。




 

セントライズ契約

オーストラリア国内のニュースでは、構造的な問題を解決する1つの方策としてセントライズすることが報道されています。セントライズとは、簡単に言うと中央集権的な契約システムです。現在では、アイルランドの成功にはそれが大きな要因であると言われていますが、それもNZのシステムからヒントを得たことです。


例えば、そのシステムがないオーストラリアや日本はスーパーラグビーやリーグワンのチームが選手やスタッフと直接契約するのに対して、セントライズではその国の協会が中心となって選手やスタッフと契約しています。このシステムの大きなメリットは、国代表の意向が反映されるだけでなく、ハイパフォーマンスの観点から選手の起用などのついても国代表の意見が反映されやすくなるということです。例えば、代表選手の出場時間や休みなどを代表側とチーム側でうまくマネジメントすることができるようになります。また、各チームの監督やスタッフも契約対象にすることで、代表の強化方針や戦術などを幅広く浸透させることが可能になります。


実は、私が働いていた時期にも同じような議論がなされましたが、巨大ユニオンとの利権やオーストラリア協会との力関係などにより、それを先導していたCEOが協会を去る形で頓挫してしまったという過去がありました。

それからの10年でオーストラリア協会のCEOは6人目になります。それだけでもこの10年間の迷走は容易に想像でき、あの時期に決断されていれば、どのように変わっていたのかと思うと残念でしかないです。


兎にも角にも、また同じシステムの導入に向けて議論が始まったのは、どういうシステムであれ現状より良くなるのであれば、まずは挑戦することが今のオーストラリアにとっては一番大切なことかもしれません。


一方、日本もオーストラリアと同様に、国代表の意向が非常に反映されにくく、日本代表=「名誉」という言葉のもとで支えられているのが現状です。

日本の場合、完全なプロではなく、社員選手や大学生などが混在した育成システムのなかで、良き部分を残しながらも世界に例のない独特なシステムを考えていくことが次の10年には必要なのかもしれない。



ナショナルアカデミーの崩壊

セントライズのもう1つのメリットは、選手育成でした。

オーストラリアラグビーの歴史はシドニーとブリスベンを中心にした地元クラブの競争でもあり、そのクラブからワラビーズを輩出してきました。しかし、プロ化に伴いスーパーラグビーのチームができたことでクラブラグビーとプロの間にギャップができてしまったと言われています。そのギャップを埋めるために、南アのカリーカップやNZのNPCなどの大会を参考にしてARCという大会を2007年に立ち上げましたが、たった1年で財政的問題で中止となっていた経緯がありました。


その当時の選手育成は、地元クラブと各スーパーラグビーチームのアカデミーチームに依存していましたが、各チームのシドニーやブリスベンからの若手選手争奪が激化したこと、各チームの育成方針が優先され国代表の意向が反映されにくいこと、各チームの意向でアカデミー契約が解除されるなど継続した育成が困難であったことが問題となっていました。

そのような問題を解決するために、当時のオーストラリア協会が主導する形でナショナルアカデミーをたちあげ、国レベルで有望な若手選手をそれぞれの居住地に近いシドニーとブリスベンの二箇所で運営することになりました。もちろん、そのアカデミーのコーチ、S&Cなどのスタッフも協会が契約して運営していました。


私は、定期的にそのアカデミーを訪れ、練習や試合の撮影や分析作業、選手たちへの教育が大きな仕事の内容でした。


しかしながら、結局新しいCEOが登場した2013年にはARCという大会をNRCという名前に変更し、各チームへアカデミーを戻すと言う大きな変革が行われることになりました。

その新しいNRCはコロナで中断されてからは復活されることもなく現在に至っています。


どの方法がいいのか?正直それは私にもわかりませんが、豪州ラグビーが構造的な問題を解決する最高の機会が今なのかもしれません。


一方、日本では今まで高校ラグビーや大学ラグビーのシステム、そしてその指導者のかたが選手を育成し、そこから多くの選手が日本代表まで育っていたことは間違いないです。

そんな中で、高校ラグビーの学校数は年々減少し、選手は有望な私立高校へ集中する現象が多く見られます。大学ラグビーでも、1部以外のリーグは選手が集まらず試合を棄権せざるを得ないようなことも耳にするようになりました。日本の選手育成への構造も今後どうなっていくのか、10年後に同じ構造ではないことを願うばかりです。



グラスルーツ(コーチ育成)への投資

その昔、私自身がコーチになった時代、オーストラリア代表が強かったことで、オーストラリアのコーチングを勉強するためにシドニーにいったり、コーチングコースを受けていたことを思い出します。


その歴史において多くの有能な指導者を輩出していた国が、その当時、危機感をもってコーチ育成や選手育成の目的で莫大な投資を行いました。

・地元クラブ選手権のトップチームと育成レベルの試合を全試合業者に撮影依頼

・その映像をナショナルアカデミーのスタッフだけでなく、各SRチームにも共有

・分析ソフトを各クラブのコーチに無償提供

・必要な試合は、インターンをよってコーディング(データ化)


私は、この撮影業者との調整だけでなく、SRチームへの共有、各クラブのコーチへの分析ソフトの教育など多岐に渡りサポートすることが任務でした。

各クラブのコーチは、今まで映像も手に入らなかった環境から激変し、分析ソフトなども活用することで、自分自身のキャリア形成にも役立っていると非常に喜んでいたことを思い出します。


その投資もCEOの変更とともに中断されてしまった10年前。

どんな投資でもいいですが、選手だけでなくコーチを育てる環境をつくることもこの先のオーストラリアには大事なのかもしれません。


当時日本人の立場から、ここまで協会がグラスルーツ(アマチュアラグビー)への投資をしていることに驚くばかりでした。例えば、日本では試合の映像を入手するにもチームやスタッフが金銭的にも時間的にも工面しながらやっていたことを考えると、それが試合後にもらえるだけでもその負担は大きく軽減されます。現在のリーグワンでは、「世界レベルの環境」ということで練習試合も含めた全試合の映像をチーム間で共有されるようになりました。10年後には、その「世界レベルの環境」が大学や高校にまで広がっていることを望むのは理想的すぎるんかなぁ?

 

10年後の日本、長い目でみた構造の変化、多くの学びを検証し多くの選手やコーチが世界で活躍できることを期待します。

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