#1 ラグビーの分析
ベスト8チーム以降の試合をみながら、その試合の強度、精度に驚きを感じ、ラグビーの醍醐味を楽しませてもらいました。どのチームも、その国の伝統、文化、名誉をかけ、多くの熱狂的なファンの声援をうけながら素晴らしい試合で魅了してくれました。
では、ラグビー日本代表が、常にこの場に立てるようにするためには、どのような基準をクリアすべきなのか、私自身の20年の分析経験をもとに確立した「濵村式ラグビー勝利の分岐点」をもとに考察していきたいと思います。
今回のブログでは、以下の内容について「超我流」の自由視点でみなさんにお届けできればと思っています。
勝利の分岐点って?
現代ラグビーの分析では、多くの数字が使用されています。それを一般的には「スタッツ」と呼んでます。
具体例としては、ボール支配率、セットプレー成功率、ゲインライン率、クイックラック(LQB)、ゲインメーター、タックル成功率などがそれにあたります。
もちろん勝つためには、それらの数値で相手を上回っていることが、勝利への近道だと思いますが、それらの数字と勝利の間に確固たる相関がないことに長年疑念を抱いていました。
例えば、タックル成功率が98%なのに試合には負けた、ゲインメータは圧倒的に支配していたのに試合には負けたなど。。。
同じターンオーバー数なのに、勝った時は何も言われず、負けたときはすべての敗因かのように使われることに疑問を感じていました。
今流行りのゲインメーターについても、ラグビーの競技構造上、前にボールを運ぶことは非常に重要で、「ボールを前に運ぶ」という単面的な視点では大切な指標です。しかし、現在使われているゲインメーターは単純に1試合の合算値にすぎず、選手個人の出場時間の違いや相手チームとのボール支配率などの違いは考慮されていないので単純な比較で使用するのは非常に難しいことも理解して「数字」を使用することが大切です。
もちろん、これらの数字も大切な要素です。しかし、それらは、ラグビーという競技の多面的で複雑な競技構造を、単面的な視点で評価しているに過ぎず、それぞれの場面での優位性を評価しているに過ぎないのです。
そのような疑念をもち、他競技なども参考にしながら、ある仮説をもとに、数年間の検証を繰り返した結論として「勝利の分岐点」を導きだしました。学術的な検証はされていないですが、私自身にとっては試合中にも活用できるものとして非常に重宝したものでしたので、この機会にみなさんにもご紹介できればと思います。
考え方はシンプルです。ラグビーはエラーのスポーツだと考えています。
なので、1回のアタックでエラーをせずに、得点または相手にプレッシャーを与える有効な結果をもたらすことができれば、相手に勝つ確立は高まるというものです。非常に僅差の試合では、22m内へ入ったときやラインブレイクしたときの精度で勝負の差につながることもその要素として考え、これらの分岐点が1つでも相手より上まっている場合、試合に勝つ確率が高いことになります。
先述したようなセットプレー成功率などはラグビーという競技構造上、単面的にこれらの分岐点をあげるための1つの視点、自分たちの優位性を計るための1つの視点でしかないと考えます。そのあたりについても是非このブログで今後触れていきたい内容です。
濵村式ラグビー勝利の分岐点について、準々決勝の勝者と敗者の結果を見ていきます。
アタック効率
1試合平均各チーム約50回のアタック機会があります。その中で、エラーをせずに有効
なアタックをした回数の割合を表します。DF側の観点でこの表をみると、順々決勝の勝者は敗者のアタックを57.4%の確立で阻止していることがわかります。
ターンオーバー率
1試合平均各チーム約50回のアタック機会があります。その中で、ボールを失った回数
の割合(少ないほど良い)。私自身、リーグワンでの勝敗ラインは40%でした。それを考えても、この準々決勝の舞台で26.6%という数字は驚異的でしかないです。
この数字を見ても、ラグビーがエラーのスポーツだと言える所以です。
40%よりいい数字をだして精度をあげようという考え方もできますし、40%まではいいのかっていう考え方もあるのかもしれません。
例えば、1試合で20回のターンオーバーがあると、その数字だけをみて「多すぎる」
とコーチから反応があります。でも試合によってボール支配率が異なり、アタックの総
回数も異なるので、数字(情報)を適切に扱うことも非常に重要です。
キック効率
現代ラグビーにおいてキックの重要性が増していることは明らかです。いろいろな考え方や見方があるとは思いますが、ここでは、ある基準に基づいてキックを評価し、その有効性について表しています。。
ラインブレイク効率
ここでいうラインブレイクとは、完全にクリーンに敵のDFラインをブレイクしたもの
を指します。その結果として有効なアタックとなった回数の割合を表します。
22m効率
22mとは攻撃チームが敵の22m内へ侵入した回数に対して、有効なアタックとな
った回数の割合を表します。したがって、その伏線的な要素としてペナルティーの回数も
大きな影響があります。ちなみに、この準々決勝の4試合で、すべての勝利チームのペナ
ルティー数が敗戦チームより少なかったことは非常に興味深いです。
その差がPGに繋がったことも、勝利への相関としてはあるのかもしれません。
日本代表との比較
これらの効率をあげるために、相手をどう上回るのか、相手の強みをどう消すのかという考え方、システム、戦術などは、それぞれのチームの選手の特徴やスキルレベルなどによって決定されるべきと思います。多くの国やチームの特徴、文化、歴史もあるかと思います。
最終的な試合の達成目標はどのチームも変わらないものであり、そこへ辿り着く方法が異なると考えると、これらの分岐点は非常にシンプルでわかりやすいと思います。
これらの数字を言い換えると、「チャンスをものにした回数」ということになるかもしれません。負けたチームの監督インタビューでもよく聞かれる、「チャンスはあったが取りきれなかった、その精度が悪かった」というのは、くしくもこの部分を代弁しているのかもしれません。
さて、日本代表がベスト8へ行くだけではなく、勝つためには大きな壁が立ちはだかっていることは明白な事実です。高い強度やプレッシャーの中でプレー精度あげることについて更なる基準の確立が必要なのかもしれません。そのスタンダードが今後のリーグワンで高めあうことになることを願っています。
ラグビーはエラーのスポーツなので。。。
W杯決勝戦
ワールドカップもあっという間に幕を閉じました。今回の大会は、誰が優勝するのか予想するのが非常に難しく、個人的には大会前の予想を大きく裏切られた結果でした。
AIに優勝予想してもらうような将来になるのかも。。。
さて、決勝戦ですが、いろいろな見方がある中で、この「勝利の分岐点」で試合をみたら次のようになりました。
この僅差の試合の中で、アタック効率、ターンオーバー率、キック効率の3つで上回った南アフリカの勝利となりました。
NZのターンオーバー率、準々決勝のアイルランド戦が18.8%、準決勝のアルゼンチン戦が22.8%から考えても、、南アフリカのDFプレッシャーにより普段ではみられないようなエラーが起きていたことが理解できます。それだけ、NZの今大会のアタックは完璧でした。
ちなみに、ワールドカップの公式サイトのスタッツでこの試合をみてみると。。。
・テリトリー NZ 53% (南ア47%)
・支配率 NZ 60% (南ア40%)
・スクラム NZ 100% (南ア91%)
・ラインアウト NZ 91% (南ア60%)
・キャリーメーター NZ 459m (南ア360m)
・タックル成功 NZ 78% (南ア80%)
これらの数字をみて、NZが負けたこと、どうやって説明すればいいんやろう。。。
ってアナリスト泣かせの試合です。
なので、複雑な試合をシンプルにみる「勝利の分岐点」に至ったってわけです。
ラグビーのような複雑な試合をシンプルに見ていくために、この分岐点を他の試合でもご紹介していければと思います。
みなさんも、まずは、自分のチームと上位チームのターンオーバー率の差をみて、自分たちの分岐点を探してみるのもいいかもしれませんね。
はじめまして!勉強になります!今後も学ばせていただきます